東日本橋レディースクリニック

東日本橋にある駅チカクリニックです。診察中には説明しきれない事を中心に女性医療に関する事を書いています。

帝王切開の後の痛みについて

時々、昔ながらの価値観の方は「帝王切開は楽、下から産んでこそ」なんて言うことがあるようですが、沢山の帝王切開をしてきた身としては全力で否定させて頂きたいと思います。

 

もちろん、手術の時はしっかり麻酔をするので、赤ちゃんが生まれる時点での痛みはほぼゼロです。

 

ただし、産後の痛みは下から出産した時の子宮の収縮痛に加えて、お腹を切った痛みも加わることになるのです。

 

そのため、お産の後だけを考えれば、やはり帝王切開の方がお母さんにとっては負担が大きいことになります。

 

最近では手術のために腰から麻酔をする時に、術後の痛みに備えて硬膜外麻酔というものも併用して、術後の痛みを取ろうとする事もあります。この硬膜外麻酔は、いわゆる無痛分娩の時にも使われる麻酔ですが、特に緊急帝王切開のように急いで赤ちゃんを出してあげないといけなくなると、硬膜外麻酔までやる余裕がなく、腰からの麻酔だけで手術をすることになります。

 

もちろん、腰からの麻酔だけで手術中の痛みは十分取れているのでご心配なく。

 

そこで、今回はそんな帝王切開の後の痛みに対して、ステロイドという薬を使って痛みを楽にできた、という論文をご紹介したいと思います。

 

https://www.sciencedirect.com/user/identity/landing?code=5CJNfy1JIHpsIxCWQ-iWgO8I9RYfzaU3KEtR_KFN&state=retryCounter%3D0%26csrfToken%3D2ce9db48-f2c8-4393-aaea-141fb7fff389%26idpPolicy%3Durn%253Acom%253Aelsevier%253Aidp%253Apolicy%253Aproduct%253Ainst_assoc%26returnUrl%3D%252Fscience%252Farticle%252Fpii%252FS1028455918300706%253Fvia%25253Dihub%26prompt%3Dnone%26cid%3Darp-44447b12-e7c5-4193-aec8-721299a93ab8

 

もともと帝王切開を含めて術後の痛みに対しては、先ほど説明したように硬膜外麻酔というのを併用したり、鎮痛剤を使ったりしているのですが、このステロイドを使った鎮痛方法は、今まで聞いたことがありませんでした。

 

この論文では、腰からの麻酔で予定帝王切開をした120人の妊婦さんを3つのグループに分け、1番目のグループには16mgのデキサメタゾンというステロイドの薬を500mlの生理食塩水に入れて点滴しました。2番目のグループは16mgのデキサメタゾン帝王切開で縫った皮膚の皮下に注射し、3番目のグループは、500mlの生理食塩水だけを点滴しました。

 

その結果がこちら。

 

f:id:obgyne:20191003123844j:image

 

術後の経過時間を横に、痛みの強さを縦に取ったグラフです。痛みの強さは10段階評価し、0は無痛、10は考え得る最も強い痛みです。

 

これを見ると、緑線で表されるグループ3の痛みが常に強いことがわかります。これは、生理食塩水を点滴しているだけのグループで、特に何も痛みに対して対策をしなければ、帝王切開の後の痛みはこれだけ強くなる、ということを表しています。術後1日を経過するあたりで、8〜9と非常に強い痛みを訴えています。

 

一方で、ステロイドを使っている赤線と青線のグループは術後早期から痛みが抑えられていることがわかり、特にグループ2のステロイドを皮下に注射した人たちでは、半日経過した時の痛みレベル「5」を最大として、その後は痛みが楽になっていることがわかります。

 

続いて、副作用の評価です。吐き気に関しては生理食塩水を点滴しただけのグループ3には50%の確率で出現しました。一方で吐き気を抑える効果があるステロイド点滴では25%に抑えられ、ステロイドを皮下注射しただけのグループでは37.5%という結果でした。

 

次に感染に関してです。ステロイドは炎症を抑える効果があるため、それを投与することで感染のリスクが高くなるのでは、という心配があるのですが、生理食塩水を点滴しただけのグループ3では創部感染が22.5%だったのに対し、ステロイドを点滴したグループでは12.5%、皮下注射したグループでは5%と、感染のリスクが高くなる、という心配はいらないようです。

 

以上のことから、デキサメタゾンというステロイドを使うことで大きな副作用もなく帝王切開後の痛みを軽減できる可能性があると言えます。

 

開業してしまって帝王切開をする機会がありませんが、もし将来的に帝王切開をする機会があれば、こういった薬の使用も積極的に考えていきたいと思います。